【舞台の裏側】

スタッフトーク

奈地田 愛(舞台美術)
宮川 愉可(制作)
下前田 碧(映像・記録)

聞き手:武田 宜裕

奈地田 愛(なちだ・あい)

【Profile】 
学生時代に杉山至氏の舞台美術ワークショップを受けたことをきっかけに、2014年よりINAGO-DXに舞台美術で参加。
近年のテーマは「遊び」と「イメージの具現化力」。

 下前田 碧(しもまえだ・みどり)

【Profile】 
INAGO-DXで制作部所属、映像編集、CM作成を主に担当。
音響や照明もまれにやります。
役者はさらにまれにやります。 

宮川 愉可(みやがわ・ゆか)

【Profile】 
2006年よりINAGO-DXに参加。制作担当。内部ユニット「オナゴDX」の公演では俳優として舞台に上がることも。

奈地田

「イナゴだからできることがある。シンドくても続けていきたいです」


武田:
本番終わりましたけど、みんなは本番後の作業が多くて実際は全然終わってないわけですけど、スタッフ目線で思うことがいっぱいあると思うので、聞かせてもらえたらなと。コロナのこともあって、今回はスタッフの力の大きさというのを特に強く感じました。時間的にタイトでありながら、僕自身は本当に不安に思うこともなく舞台に立たせてもらえて、俳優インタビューでも答えたんですけど、本当に神輿に乗せてもらってました(笑)。振り返ってみて、奈地田さん、どうでした?
 
奈地田:
いや・・・時間がタイトすぎて(笑)。稽古場に入ってから1か月で仕上げる分量じゃないなと。もう少し早く取りかかれてたらって思うことも結構ありました。
 
武田:
時間的な問題が大きかった?
 
奈地田:
それもあるんですけど、スタッフサイドの人数自体が少ないから、色々なことが具体化されてきた時に考える頭が単純に少ないので、照明や音響の当日の進行とか一気に考えないといけなかったのが大変で。もう1人か2人いれば、もう少し余裕を持って回せたかなと思うんですけど、気付くのが遅かったなって。とにかく、なるべく稽古場にいるようにして、稽古場でできる作業は稽古場でって思ってたんですけど、俳優に作業を手伝ってもらうのが今回は難しいかなと思って、いる人間だけでやったので。色々ヤバイなってのはありましたけど、アウトにならないラインでのヤバさというか。
 
宮川:
カバーする人数が少ない分、個人の処理能力は速くなってたと思います。あと小所帯な分、意思疎通も早かったので何とか回せた、という印象ですね。
 
奈地田:
余裕はなかったですね。
 
武田:
きっと僕は神輿に乗ってるから気付いてない部分が(笑)。
 
宮川:
毎回新しいことをやるから、っていうのも大変さの理由ではあるので。だからそんなにヤバいと思ってなかったと言われても、驚かないです(笑)。
 
武田:
そういう中で、僕も含めて俳優がストレスを感じずに舞台に立てていたので、ありがたかった。
 
奈地田:
俳優に気を遣われるほうがスタッフはシンドいので、そうならないように。自分たちで処理しないといけないことなのに俳優に「大丈夫?」とか言わせてしまってはいけないので。
 
武田:
照明は明かり作りも含めて、奈地田さんにやってもらったけど、当日、照明の操作卓から舞台が見えないんですよね。なのに明かりのチョイスやタイミングに違和感がなくて、それもすごいなと。
 
奈地田:
悲惨な感じになってなければよいなと思います(笑)。
 
武田:
奈地田さんは本番を観れてないということだけど、宮川さんは?音響操作もやってもらいましたけど。
 
宮川:
このメンバーの中では観れたほうかなと。
 
武田:
下前田さんは?
 
下前田:
満席だったので、カメラだけ設置して本番中は受付の近くにいたので舞台は見えなかったです。当日イベントと知らずに来たお客さんの対応したりしてました(笑)。
 
武田:
なるほど。客席の雰囲気はどうだった?
 
下前田:
序盤の山広さんの曲が始まった時、客席が舞台にスッと引き込まれた瞬間は見えたというか、感じました。
 
奈地田:
私は客席すら見えないので、わからなかったです(笑)。
 
武田:
舞台が見えない照明操作なんて普通あり得ないものね(笑)。
 
奈地田:
狭すぎてモニターも設置できなくて。かといってZoomとかだと時差があるので難しいので。
 
武田:
下前田さん、今本番映像の編集作業をやってくれてると思うけど、映像を観ての感想は?
 
下前田:
生で観たかった、という一言に尽きますね。
 
武田:
ああ(笑)。編集作業で気をつけてる部分は?
 
下前田:
カメラ2台編集なんですが、カメラによって色見が違うので、それをなるべく同じ画質になるよう調整して、カットの切替時に違和感がない程度にするのがなかなか大変でした。あと音声は、2台のカメラの音声を重ねてボリュームを少し落とす形にして、ノイズが気にならないレベルにはできてるかなと。
 
武田:
配信映像は音のクリアさが重要ですよね。以前観た舞台の配信映像が、割と音が反響する会場で、かつ会場の外の音が入る場所だったこともあって、セリフが聴き取りづらいのがストレスだったので。・・・ってこれ、僕がいない3者だけのトークのほうが喋りやすい?(笑)
 
宮川:
(笑)。Zoomは難しいですね。順番にしか喋れないから。
 
武田:
じゃあ宮川さん、別に制作目線じゃなくてもいいので、思ったことを。
 
宮川:
楽しかったです。あ、ラストの歌のシーンの中川さんの表情がすごく楽しそうでした。
 
武田:
・・・ごめん、今、座ってる椅子の背もたれが外れて落下した。
 
宮川:
どういうこと・・・?(笑)
 
武田:
あ、直った。今日落ち着かなかったのは、このせいか(笑)。


下前田
「何があっても続ける気概を感じる人たちを支えたていけたらって思います」

奈地田:
・・・あの、全然話変わるんですけど、私、山広さんとは大学からの付き合いで、彼女のこと「ブラザー」って呼んでて。
 
宮川:
何でブラザー?
 
奈地田:
山広さんが入ってた音楽系サークルのネームみたいなのがあって、私は演劇のサークルでしたけど、ライブ照明とかを担当したりして関わりがあって、私もその呼び名を使ってたんですけど。単純に、今回大学の時の友人であるブラザーと一緒にできて嬉しかったです(笑)。
あと、ロロ(※)とか鹿殺し(※)の舞台を観た時に、アーティストが役で出演してて、お芝居の中で馴染んで歌ってるのを観て、こういうのやりたいなと思っていたので、今回できて嬉しかったです。(※ロロ・・・劇作家・演出家の三浦直之が主宰を務める劇団)(※鹿殺し・・・劇作家・俳優の丸尾丸一郎が代表を務める劇団)
 
武田:
ロロみたいな雰囲気は僕にはなかなか出せない(笑)。
 
奈地田:
でもちょっとそれっぽいところありましたよ(笑)。
 
武田:
確かに、昔観たロロの芝居っぽいなと思うシーンはあった。
 
奈地田:
でも音楽の人たちからすると、演劇は稽古やりすぎじゃない?って思われるかな、とか。
 
武田:
山広さんも、多いなと思ったらしいけど、そういうものかなとも言ってたね。
 
宮川:
照明や音響も当日あまり時間がない中でやりましたけど、ミュージシャンの方たちに聞くと、当日にそんな時間はほぼないよって言ってました。やっぱ演劇はそこに時間かけないとできないんだなって。
 
奈地田:
演出家がトップにいて創る演劇と、全体のグルーブ感の中で創られるライブの違いというか。とりあえず、みんなで楽しんでできたので良かったなとは思います。
 
武田:
もう1か月くらい時間があれば、というのも率直な想いだよね(笑)。
 
奈地田:
自分も別の企画を抱えてて、稽古場に入れたのが遅かったのもあったので。
 
宮川:
今回、武田さんは総稽古時間を決めて、変えないスタンスでしたけど、個人的には少ないかなと思ってて。稽古を増やそうと思えば増やせたんですけど、山広さんの稽古参加をこれ以上増やすのはどうかなとも考えたり、でもスタッフの確認作業にはもう少し欲しいなと思ったり。終わってみると、コロナの状況のことも含めてこれでよかったのかなとも思うので、難しいところですね。
 
武田:
スタッフの作業という点ではそうかもしれない。俳優の演技などの面では、時間云々じゃない部分もあったので。
 
宮川:
長ゼリフとかがなかなか入らないこともあって、正直見てて不安な部分もありました。稽古以外の時間で俳優同士が話し合って整理できた部分もあったようなので、それは良かったと思うんですけど。
 
武田:
稽古を積み重ねることでできることはもちろんあるし、一方で、この時間内でやるよって決めて、やり切る意識でいてほしいとも思っていたし、そこは結果で判断される部分もありますね。
 
宮川:
スタッフとしては、とにかく稽古場にいることを重視して作業は自宅で、というのはいつもと一緒ではあったんですけど、稽古場では照明や音響の作業を中心に、台本の変更への対応とかをやっていて、それ以外の作業はほぼやらないようにしてました。
 
武田:
ほぼ演出助手みたいに動いてくれて(笑)。
 
宮川:
過去の公演よりは稽古をしっかり見てたと思います。
 
武田:
だからこそ間違いなく安心感があった。その分スタッフは大変だったということで・・・反省会の雰囲気になってきた(笑)。
 
宮川:
これ載せます?(笑)
 
武田:
どちらでも(笑)。裏側を知りたい人もいるだろうし、こういう人たちの力で成り立っていたってのを知ってほしいというのもあるので。

宮川
「まだまだみんな新しいことにチャレンジ。私も逃げずに自分と向き合っていきたいです」

 

宮川:
本番中の話なんですけど、換気用に開けてた窓とカーテンを開演の前に閉めますよね。2回目の本番の時、キッチリ閉めすぎたのか、1回目の公演よりも暗くなって。目が疲れてたのかもしれませんけど、パソコンの明かりで十分見えてた台本が見えなくて、音のきっかけが分かんなくなっちゃいました(笑)。青いゼラを貼った手元明かりも、結構明るいので堂々と使えなくて。あまりに見えないからパソコンのディスプレイにめっちゃ顔近づけたりしてたので、近くのお客さんにはバレてたかも(笑)。
 
武田:
そうだったんだ。
 
宮川:
あと会場が狭いから、台本をめくる音とかも結構、神経使ってたんです。なのに1回目の本番の時、途中でパソコンの電源ケーブルが外れてて、気付いたらパソコンの充電が40%になっててヤバイ!ってなって、ケーブルを差したら「ポロン」って音が会場に響いてしまった。
 
武田:
あ、あの音か(笑)。
 
下前田:
隣の座椅子が当たって外れたみたいです。
 
宮川:
背もたれが弱くなってたのか、急にバタンって倒れたんですよ。多分その時に。
 
武田:
途中で残り40%に気付いてよかった。
 
宮川:
ケーブルを繋いでるはずなのに何で減るのって。そのままラストまで持てばいいですけど、万が一を考えて賭けるのはやめようと。
 
武田:
昔、『パイプ・ライフ』(6回目の本公演、2014年)の本番中に音が切れたことがあって。結構激しい曲がパンって切れたんだけど、その時ちょうどピコピコハンマーで頭をポン!って叩くシーンだったので、音が切れたことに誰も違和感を感じないという奇跡がありました(笑)。
 
宮川:
そんなことが(笑)。あの頃って、忙しすぎて本番自体観れてなかったんです。
 
武田:
ああ、そうか。会場から出てきたお客さんの反応で知るっていう。
 
宮川:
お客さんたちが良い顔してたら「良い回だったんだな」って。
 
武田:
下前田さん、眠くなってる?
 
下前田:
すみません、寝不足の日が続いてて(笑)。でも今回、お客さんは良い顔してたと思います。「何も考えずに楽しめてすごい良かった」とか「良いものを見た」って声が本番後の客席から聞こえたので。そういう声がその場で直に聞こえてくるのは素敵だなって思いました。
 
武田:
「伝えたいことが全部伝わった」って感想も聞きましたね。
 
宮川:
今回、ヲルガン座っていう場所で、客席制限はしてますけどキャンセルもなかったし、ギュウギュウな中でお芝居を観る感覚って最近ないですよね。本来それが自然なはずなのに、そもそも観に来ること自体がちょっと怖いっていう、まあ自分もそうなんですけど、お芝居以外のことに気を取られるっていうのは悲しいことだなってあらためて感じています。
 
武田:
公共施設のスタジオとかで客席制限設けると、舞台から見てお客さんがまばらな印象になるよね。客席も含めて舞台の空気が創られていくはずなのに、それが難しい。ヲルガン座は元々会場自体がギュッとしてる印象があるので、場所が作ってくれてる部分もあるかなと思う。創作自体の時間がギュッとし過ぎてたのは反省点ですけど(笑)。お客さんの力も含めて、色んなものが本番にギュッと凝縮されてて、人の力と場所の力、見えない力が働いていたなと。自分たちが創ったというより、創らせてもらったという感覚。あと僕自身は、イナゴの初期の頃のお祭り感覚でやってた・・・といってもやっぱりタイトな時間ですごい物量をこなしていくスタイルでしたけど、それに近いような、初心に帰るような公演でもありました。
ってことで、そろそろ締めようと思うんですけど、今後イナゴに限らず、みんなさまざまな活動をやっていくと思うので、これからのことについて一人ずつ。
 
奈地田:
コロナのことを言えば、今後どうやっていったらいいんだろう、ってのはずっとあります。昔と同じ状態でできる時があるのか、あるいはずっとこのままなのか、その時にならないと分からないし、その時になってもきっと考えないといけないことは多いだろうし・・・創作以外の部分で考えないといけないことが多いのはシンドイなと。でも続けていかないと、コロナを理由に止まると辞めちゃうと思うので、シンドくても続けていきたいと思ってます。
あと、今回は少ない人数の座組だったこともあって「ここはこうしたら?」とか話しやすくて、舞台美術とかも、例えば幕を吊るのでも小屋入りしてから「こうしたほうが良くない?」みたいに話し合いながら変えたりとか、そういうのは一緒に長くやってきたメンバーだからできたことが多いし、イナゴだからそれができると思ってるので、これからもやっていきたいです。
 
武田:
Zoomで顔を見せてなかったら、僕泣いてます(笑)。
 
下前田:
私は、コロナのこともあって、稽古場とか、なるべく参加しないようにしてるんです。今回も本当はもっと稽古場に行きたかったんですけど、あまり人が増える状態を作りたくないのもあって。でも実際に現場に入ると「大丈夫だ」っていう安心感や信頼感があったのは、このメンバーだからってのもあるし、「今だからこそやろう」っていう気概というか、何があっても続けていく人たちだって思えたので、そういう人たちを支えていきたいって思ってます。
 
武田:
今のすごくカッコよかったんだけど、通信状態が。下前田さんの顔が左右にコマ送りみたいに左揺れてて、面白すぎる(笑)。あの、何があっても続けていくってのは、確かにそう思ってますけど、無謀になるとか蛮勇になるってことではなくて、ビビリでよいと思ってます。これからまた、オンライン中心にならざるを得ない状況だってあるかもしれないし、そういう中でも常にアンテナを張った状態でいたいなと。じゃあ最後、宮川さん。
 
宮川:
普通にお芝居ができない状態になったとしても、何かしらはやっていきたいって思ってるんですけど、この前家族に「こんな時ぐらい休むことはできないの?」って言われて。何となくでも理解してもらってたと思ってた分、ちょっと悲しいなって。でも、パンフレットのコメントにありましたけど、今日のメンバーであれば、奈地田さんの「近年のテーマは「遊びとイメージの具現化」」っていうのを見て、それをどのように形にしていくのかを見たいし、下前田さんの「音響や照明を稀にやります、俳優はもっと稀にやります」の、その「稀にやる」のを見たいし。何かイイ歳になってきても、みんなまだまだ新しいことをやっていくんだなって(笑)。それを見たいし、私もやりたいですね。
 
武田:
ちなみに宮川さんのテーマは?
 
宮川:
ゴトウイズミさんに言われたんですけど、「逃げない」。「向き合う」っていう言葉に向き合いたいなと。
 
武田:
小泉進次郎のポエムじゃないよね(笑)。
 
宮川:
(笑)。自分ができる仕事はこれです、って人にきちんと提示できるようになろうって。制作って何でもやりたくなってどんどん仕事を増やせちゃうので。100%というか、ゴールがないんですよね。みんなそうだと思うんですけど。
 
武田:
単純なことだけど、私はこれがやりたい、見たい、できる、やってほしい、できない、っていうのを、このメンバーの中ではしっかり出してもらいたいなと思います。そうやって、このメンバーでのこの企画の最適解、っていうものを毎回見つけていけたらいいし、何でも話せってのとは違うかもしれないけど、そういうものを言葉で出せる場であることに価値があるし、そこで出た言葉にも価値があるから。次に向けたヒントにもなるので。そのためにも、僕自身も、やりたいことは誰よりも明確に伝えていきたいなと思ってます。