俳優インタビュー④
武田 宜裕(たけだ・よしひろ)
【Profile】
高校より演劇を始め、演劇&執筆歴27年。2006年に「INAGO-DX」を始動。ほぼ全公演の脚本・演出を手がける。最近は依頼執筆や演出、客演での多団体への出演のほか、映像出演やナレーションなども行なっている。
「僕はみんなに神輿に乗せてもらっただけ。みんなが自然にやりたいと思えることを形にしていきたい」
聞き手:宮川 愉可(INAGO-DX制作)
宮川:
公演お疲れ様でした。
武田:
僕より宮川さんやスタッフさんが、ですね。ゴトウイズミさん(ヲルガン座支配人)が言ってたけど、本番観てたら僕が神輿に担がれている姿が見えたって(笑)。そして神輿の前で宮川さんたちが「神輿が通りますよー!」って見物客を交通整理してたって(笑)。僕は楽しませてもらってただけで。
宮川:
今回、いつもより大変でしたけど、楽しかったです。みんなも楽しかったんじゃないかなって。
武田:
いつもより大変っていうのは?
宮川:
作品の上演時間(約1時間20分)に対して、準備時間がタイトだったかなと。
武田:
僕が感じる大変さと、みんなの大変さは違うかもしれないですよね。客観的に見れば僕の作業量も多かったけど(笑)。パンフレットがギリギリになってホント申し訳なくて。(今回のパンフレット制作は武田が担当)
宮川:
本番の10日前に内容や分量を決めましたけど、私も色々提案させてもらったら、話がどんどん膨らんでしまったので反省してます。武田さんから「ミニコミ誌を作りたい」という言葉を引き出してしまったのが(笑)。結局、有料にしてもいいぐらいの情報量になってしまって。
武田:
提案をもらった時に「やりたい!」って思ったから全然苦じゃなかったんです。ただPCの不調にやられたのが(笑)。
宮川:
私もよくプリンターが動かなくなるとか、機械と相性が悪いので、時間ギリギリだとドキドキしますね。今回は個人的にそういうのがなかったのでホッとしてます(笑)。
武田:
大学の時、卒論の提出日にアステールプラザ(現:JMSアステールプラザ)で舞台の本番があって、できてない卒論を徹夜で仕上げたんだけど、肝心のプリントアウトの時にワープロのローラーが壊れちゃって、ローラーを手動で回して打ち出しました(笑)。
宮川:
ずっと綱渡りなんですね(笑)。
武田:
そろそろ綱渡り人生を何とかしたい(笑)。でも本番自体は、セリフを噛んだり物を出し忘れたり結構バタついたんですけど、やってて不安は全くなかったし、集中はしてるけどピリピリはしてなかった。
宮川:
自身の役(兄)について聞かせてください。
武田:
きょうだいをまともに書いたのが初めてなんです。何で今まで書かなかったのかって言われてもアレなんだけど。山田くんとアイデア会議やってて、「金魚鉢兄妹」っていう設定が何気に出てきて。
宮川:
「金魚鉢」はどこから?
武田:
金魚鉢の中の金魚が、僕の中ではアクリル板の向こうで隔離されてるイメージなんです。僕の好きな故・遠藤ミチロウさんの『カノン』っていう曲が、金魚鉢の中の金魚の歌なんですけど、「僕を愛してるというのなら、硬いコンクリートの壁に叩きつけてください」みたいな歌詞が妹と重なるなって。で、兄はその妹に対して、ずっと兄であらなければならない覚悟を持って生きているっていう。何となく、『男はつらいよ』の寅さんの変形バージョンです。全然ダメな兄だけど「偉い兄貴でいたい」っていう。あと、あえて書いてないけど、兄と妹しか出てこないのは、多分親はいなくて、ずっと2人で生きてて、それが宇宙空間で離れ離れになって、兄は生きているかどうかわからない妹を探してるっていう設定。これは、例えばコロナで亡くなった場合、隔離しないといけないから、きちんと死に目に会えない、別れをちゃんとできないっていうことと重ねてる部分があります。
宮川:
そうなんですね。Twitterの感想で「宇宙で1人」ってワードがありましたが、作品の中の孤独を強く感じたのかもしれませんね。
ちなみにゲロとツバキの関係って、色々解釈できそうで、人と人の関係として捉える方もいるかもしれませんけど、私は「歌詞」と「メロディ」の関係性と捉えました。
武田:
最初の着想はそうですね。でも色々な解釈があっていいと思ってます。
宮川:
一番好きなシーンは?
武田:
作家、演出、演じ手、それぞれの立場で違うかもしれません。そもそも書いてる時は、「こういうシーンを入れよう」というよりは「こう書かざるを得ない」って感覚で書いてたので。長ゼリフを書きたいわけじゃないけど結果として長ゼリフになったり。「最初から声帯なんてなかったんじゃないかってくらい声の出し方を忘れた」っていうセリフを書いてる時は一番テンション高かったかも(笑)。このセリフをゲロが喋るシーンは、兄は倒れてますけど、目つぶったまま泣いてました(笑)。
でも何より驚いたのは、僕がセリフにしたりシーンとして描いたことと、山広さんの歌の歌詞があまりにリンクしてたことですね。台本を先回りして歌詞を書いたのかってくらい。
宮川:
私もビックリしました。
武田:
冒頭の『涙の海を渡ろう』なんて、兄からすれば「広い広い空を見れば君がそばにいる気がして」の部分とか、彼の心情そのままでしたね。
宮川:
作品を創る時は冷静でいないと、って常に思ってるんですけど、今回はコロナとかも背景にあったからかもしれませんが、舞台写真の整理をしながら、エンディングの『青空』が脳内に流れてきて泣いちゃったりしました。共演者としての山広さん(ツバキ役の山広朋実)はどうでしたか?以前、別の舞台ではご一緒されてましたね。
武田:
役の話で言えば、兄にはツバキが見えてなくて、結局一度も目を合わせないんですよね。でもエーアイを通して曲は聴こえてて、ずっとそこにいる存在で。俳優同士のガッツリ共演ではなかったけど、彼女が空間にいるだけで絵がしっかり収まっている感覚はありました。
宮川:
俳優は立ち方、見え方を工夫するって言いますけど、山田さんも「居ずまいが良い」って言ってましたね。
武田:
バランス感覚が良いというか。俳優が立ち方を間違えると、空間が傾いて見えるじゃないですか。そういう意味で空間把握ができる人って思いました。素人意見ですけど、ライブをやる時、客席を含めた空間全体を把握しないといけないから、捉え方が広いのかなと。
宮川:
今、このインタビューを読んでくれてる方は、ぜひパンフレットで歌詞を読み返してもらって、俳優トークも読んでもらえたら、また色々理解が深まるかもしれませんね。
武田:
あと中川さん(妹役の中川綾子)は今回、僕が見たい彼女って感じでした。
宮川:
見たい、というのは?
武田:
今まで、俳優としての彼女を僕があまりうまく使えてない気がしていて。今回は細かく指示せずに、たくさんのセリフを与えて、好きなように喋って動いてもらいたくて、年齢設定も特に定めてないですけど、子どもだったりおばあちゃんに見えたり幅広い感じで自由にやってもらえたらなと思って。高いところに上がった妹の「孤独ってこういうことなんだ」ってセリフを聞いた時に、まっすぐな声でまっすぐ発してて良いなと思いました。彼女自身も、セリフで気になったり引っかかる箇所がほとんどないって言い切ってたので。その分、役の設定もあるけど、山田くんは苦しそうだったなと(笑)。
宮川:
武田さんがFacebookでも書いてましたね。「彼の苦しさは物語の苦しさでもあった」って。ずっと閉塞感の中にいる感じでした。
武田:
ゲロって役は、彼自身が人間として苦しいっていうのと違うし、彼自身に対して観客が感情移入するのとは違うので、難しかったとは思います。
宮川:
そういう意味ではゲロは歌詞だったのかな。後々考えるほど色々膨らむお話ですね。ではそろそろ締めを。
武田:
今回は、僕自身が楽しければみんな楽しいっていう、傲慢な考えですけど、まずは自分がそういう状態でいることを心がけて臨んだ公演でした。お芝居できる、舞台に立てるっていうシンプルな喜びを感じながらやろうと。
宮川:
広島の集中対策期間の開始が本番日と重なってみんなゾッとしましたし、公演ができたことを手放しで喜べない状況ですけど、できたことには感謝しかないです。
武田:
中止か決行か、どちらを選んだとしても「よかったよかった」にはならないわけで、最終的には主観で判断させてもらったところはあります。結局「僕らにとって必要かどうか」でしか判断できなかったので。でも、チケットキャンセルがゼロだったことも後押ししてくれた要因かなと思います。これから何がどうなっていくのか、誰もわかりませんけど、その時にやろうと自然に思えたことを形にしていきたいし、それに関わってくれる人たちも、しないといけない、じゃない、自然な感覚・感情で創りたい、関わりたいと思えるような企画をやっていきたいです。
俳優インタビュー③
山田 健太(やまだ・けんた)
【Profile】
自身の劇団での脚本、演出、出演を経て、2009年よりINAGO-DXに参加。俳優・力仕事担当。
ROUND3『闇・ヲ・討・ツ~デビルな王子といけないナース、箱詰めヤドカリ2万マイルの引っ越し篇~THE☆AGAIN』以降、全ての本公演+αに出演。
一人芝居、オンラインにも活動範囲を拡大中。
「その役を救ってやることが自分自身を救うことにもなる。苦しかったけどやってよかったです」
聞き手:武田 宜裕
武田:
いかにもインタビューって感じでやりますか?
山田:
いかにも?
武田:
今回の公演を振り返っていかがでしたか?
山田:
あ、武田さんがインタビュアー感を出すってことか(笑)。もう少しダベリ感でお願いしたいです。
武田:
真面目に「聞くことリスト」を作ったのに(笑)。ねえ何で演劇やってんの?
山田:
そんな入り方って(笑)。僕、ホントにクズい人間なんで。以前川村くん(川村祥太、広島の劇作家・俳優)のインタビューで答えた話なんですけど、中学卒業したらすぐ旅に出ようと思ってたんです。でも騙されて高校に行くことになり、高校出たら・・・と思ってたら、なんだかんだ紆余曲折あって、今に至るというか。
武田:
中学のあとに旅に出れてたら、お芝居と関わることはなかったかも?
山田:
や、そうかもしれない。高校卒業した後、お芝居はやってましたけど、色々めんどくさくなって携帯も捨てて旅に出ました。けど、結局は今のためになってたなというか。・・・これ、どアタマに聞く話ですかね(笑)。
武田:
じゃあ、公演を振り返って(笑)。
山田:
イナゴデラックスに初めて参加した時から振り返ると、僕の中では1、2を争うくらい大変でした。
武田:
どのへんが?
山田:
元来引きこもりなんで、自分の中の整理をつけずに他の人と話すのにパワーが要る人間なんですけど、プライベートとか含めて色々しんどい時期に重なったのもあって。本番の前日まで「これヤバイなー」って思ってたんですけど、稽古で武田さんから「とりあえず声出したら?」って言われて、ああ、最初はそういうシンプルな話だったよな、って思い返して、それでラクになったというか。自分の中の膿がなんとか出せたみたいな。結果的に今回のステージがあって良かったなと思います。
武田:
稽古中に色々と悶々してた?
山田:
お芝居自体が、ではなく、色々全部キツくて。お芝居でいうと、小骨がなかなか取れないような状態が続いてました。終わってから、あ、そういうことか、と合点がいくような感じで。結構自分勝手でしたね。
武田:
自分勝手。
山田:
振り返ってみてですけど、自分の問題を解決するために今回のステージがあったような。だからやってよかった、というのが素直な感想ですけど、申し訳なかったという思いもあります。
武田:
これ、文字でまとめる自信がない(笑)。
山田:
「この間、山田が訳わからないことを喋った」とか書いといてください(笑)。「10分くらい語ったが何も覚えていない」とか。
武田:
「○×▲◎□★▽%◇」みたいに表しておこうか(笑)
でもね、稽古場に来たら切り替える必要はあるけど、僕らって多分、お芝居とプライベートとの距離感がプロの方々よりも近いから、何かしら普段の自分をまとって稽古場に来るっていうのは、山田くんに限らず見てきてるし、僕もそういうことあるし。逆にキッチリ分けようとして、稽古場はそういうところじゃない!ってなって、それは大事かもしれないけど、それでプライベートが苦しくなるとか、普段の生活がつまらなくなるのはどうなのかなと。そうなるぐらいなら、双方に良い効果が生まれるように境界線をゆるくしておくのもアリなんじゃないかって、最近は思いますけどね。今の山田くんは無理に切り替えない、切り替わらないのがリアルなのかなとも思ってて。
山田:
ああ。何でこんな状態だったんだろう?ってのもハッキリわかんないところがあるので、そういう意味でも、もう一回やりたい気持ちがあります。
武田:
結局自分の中の違和感は解決したの?
山田:
はい。解決できた理由は台本でした。僕の悪い癖なんですけど、役と自分をすごく混同するというか、接点をたくさん見つけて役に同化しようとするんです。登場人物の問題を解決してあげられたら自分も救われるんじゃないか、みたいな。この役(ゲロ)だから悩んでたってわけじゃないんですけど。
武田:
でもお兄ちゃん役だったら、そこまで悩まなかったんじゃない?
山田:
その場合、本番はスムーズだったかもしれないけど、それはそれで自分の問題が色々解決されずに終わってたかもしれません。兄は最後、自分の足で進んでいくじゃないですか。でもゲロは、色んなものを蓄積してるけど、欲しいものばかりではないし、周りには「不要なもの」って言われるような存在だから、彼の状態が解決することで自分もラクになれたっていう感覚です。・・・何か暗い話になってます?
武田:
そもそもよく分からない、この話(笑)。
山田:
早めに言ってくださいよ(笑)不要不急な時間じゃねえか。
武田:
演技について、演出からはどのようなことを言われました?(演出自らわざとテンプレな質問)
山田:
・・・何回も読んでとにかく声に出したらいい、千本ノックだよと言われて、ああそうだったなーって。
武田:
頭で考えるより自然と口が開いて声に出るようになってほしかったから。中川さんも途中からそういう感じになって、自分のリズムにお芝居を引き込んだというか。山田くんがそれに合わせる形になってた時期は、ちょっと辛そうに見えた。彼女が得てる自由に対して、山田くんが得たい自由がなかなか噛み合わなかった部分はあって、戸惑ってるように見えたな。
山田:
それで遠慮してる部分もあったかなと思ったんですけど、その辺は、稽古後に話をしたりする中で違和感が拭えていったところもあって。
武田:
稽古外の時間で俳優同士で話して整理して、また稽古に臨むとか、意外とやってなかったしね。兄と妹、僕と中川さんで言えば、僕が演出だから立って合わせる時間は少なかったんだけど、やりながら「ここはこんな感じでどう?」とか話し合いながら作っていって、でも通し稽古とか本番の時は「そっちがどうやろうが知らねえよ」ぐらいに割り切ってて。兄ちゃんはこうしたい、妹はこうしたいをお互い自由にぶつけ合ってたら、自然と2人の形ができていったというか。「どんな感じになっても大丈夫」っていうのを互いに発信しながらやってたかなと思う。だからある時中川さんが「私、兄ちゃんとは割とわかり合えてる自信があります」って言ってきて、そう思えてるなら本番はまあ大丈夫かなと。ただ「どうも金魚鉢兄妹でーす」って漫才風にやったところは大反省ですけど(笑)。
山田:
あのシーンは頑なに「アニー」をやろうとしたからですよ(笑)。
武田:
客席がサーと凍りましたしね(笑)。
全体を通して、良かったシーンとかは?
山田:
どれというのは・・・名シーン揃いでしたから。
武田:
自分で言う(笑)。
山田:
泣きどころ多くなかったですか?
武田:
書いた時も作ってた時も、泣かせにいったシーンはないんだけど。でもゲロの「叫ぶどころか声帯なんて最初からなかったんじゃないかってくらい声の出し方を忘れて」ってところは、書いてた時の筆圧が結構強かったので、聞いてて結構来ましたね(笑)。昔の自分だと書けなかったかも。あと、それを山田くんが喋ってるっていうのもね。個人的な想いですけど。
山田:
僕は兄と妹のシーンは全編通して好きなんですけど、兄がゲロと妹の間に割って入ってくるシーンが個人的に好きで。家族がテーマの映画とか苦手なんですけど、今回の作品は良いなと思って。僕に弟がいるからなのかもしれませんけど、僕の中で「きょうだい」を感じさせる、肉親同士の「血」の強さというか、「お兄ちゃんなんだから助けなさい」とか「自分は兄だから自分を助ける」みたいな、血のつながりがもたらすどうしようもなさを感じさせるシーンだったなと。
あと、ラストのほうのシーンはどれも良いんですけど、自分絡みで言えば、ツバキ(山広さん)がとんこつスープを持ったままゲロをジッと見るシーン。ツバキとゲロって会話らしい会話がないんですけど、目ではたくさん会話してて。僕、人の目を見るのは馴れてるつもりでしたけど、あのシーンは稽古でも本番でも、一瞬戸惑うぐらい、彼女の目から全部こっちに流れ込んでくる感じでした。
武田:
なるほど。
山田:
ゲロと兄絡みでは、兄がゲロに「宇宙でただ一人の妹の宇宙でただ一つの望みに答えてやれ」ってところですね。ゲロにすがってきて、でもゲロが答えないから「もう頼まねえ」みたいになるのが、やっぱり「きょうだい」を感じさせるなって。(と言いつつウルウルし出す)何か自分もあんなお兄ちゃんになりたかったなと(笑)。カッコよく描かれてるわけではないけど、ある種の「お兄ちゃん像」を貫いてるところが良いなと。
武田:
そもそも「金魚鉢兄妹」って設定も山田くんとの話の流れで何となく出てきたものだよね。兄を描こうと思ったのは、家族の絆というより、肩書を背負ってる人物を書きたくて。「兄であらなければならない」みたいな使命感で動いてる兄。あえて名前をつけなかった理由もそれで。下の子は名前で呼ばれるけど上の子は「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」って肩書で呼ばれるから。まあ自分が「きょうだい」を書くこと自体が珍しいんだけど。
山田:
舎弟みたいな関係は多いですけどね。イナゴ絡みは男優だけ、女優だけっていうのがほとんどだからそれも影響してるかも。
武田:
ああ、そういう縛りがなかったから、自然と家族とか書いてもいいじゃんって思ったのかもね。ってことで、山田くんが演劇始めた理由は川村くんのnoteを読んでもらうことにして、そろそろ締めていい?
山田:
何だその雑な締め方は(笑)。今回、本番2回で終わっちゃったので、もったいないなって思いました。
武田:
じゃあ今後に向けて何か。
山田:
今、台本書いてます。というか書き始めました。止まりたくないなって思って。でも書いてすぐ消すんですけど。
武田:
消すんかい。
山田:
書くことで消化というか、その時の感情とかを成仏させるというか。でも誰かが見る前提で作り出されることが大事だなと思うので、これはあくまで自分向けですね。
武田:
プロのアスリートとかが、毎日練習ノートつけてたとか聞くじゃない?これ、将来名が売れた時にエピソードとして紹介されるって意識・無意識問わず頭にあって、そういう人が結果を出すみたいな気もしてる。共感を得られない超極私的意見だけど。
山田:
高校の時、日記を書いてたんですけど、誰かが読む可能性を考えると途端に面白くなくなっちゃって。本当に個人的な行為だったんだなと。
武田:
日常で発する言葉一つとっても、自覚を持って発してるかそうでないかの違いは大きいでしょう。相手に伝えるという意味で。自覚のある人間には、どんなジャンルであれ創作性があるから。なので山田くんが自覚的に書いた台本で「ヤマ王」やりましょう。(かつてのイナゴデラックスの短編上演企画「イナ王」をモジった発言)
山田:
それニーズありますかね(笑)。
山田健太へのインタビューが掲載された川村祥太さんのnoteはこちら
https://note.com/shotakawamura/n/n55c91ed14736
俳優インタビュー②
中川 綾子(なかがわ・あやこ)
【Profile】
後輩に呼び出され地元の劇団に関わる。いつの間にか後輩も消えていたが、自分だけが残り、所属するも劇団封印。
その後2009年にイナゴDXに衣裳で参加。居心地がよくそのまま居座り現在に至る。内部ユニット「オナゴDX」では俳優として舞台に立つ。
「自分のターニングポイントのような舞台。できるなら何回もやりたいです」
聞き手:武田 宜裕
武田:
髪切った?
中川:
切りました。色も変えて。
武田:
本番の時とまたイメージが変わったね。
中川:
メガネかけてますし、あと今すっぴんなんで(笑)。
武田:
(笑)。今回の舞台写真を見たんだけど、中川さん過去イチ、フォトジェニックだなあと(笑)。
中川:
しっかり目も開いてましたしね。(※稽古で「目を細める癖があるからしっかり開いて」という武田の指示があった)あと髪の色も、割とイイ感じだったんで。武田さんも今の髪の色、栗毛っぽくてイイ感じですよ。本番のは少しチャラかったから(笑)。
武田:
本番の翌日が日曜日で、まあ誰が見るわけでもないだろうって、そのままでいたんだけど、せっかくだから自撮りしとこうと。で、写真を見たら、オレ割とイケてんじゃね?って(笑)。
中川:
あはは。
武田:
そういえば、他のメンバーに聞いたけど、本番後に、曲が脳内再生されて、思わずウルッとなったりしてるらしいね。
中川:
今回の内容って、表現に関わってたり、舞台を観るのが好きな人には刺さる内容でしたよね。
武田:
うん、わからない人にはわからないかもしれないけど。僕の芝居を観ていつも「前衛的」としか言わない知り合いが、「どんな劇かと聞かれたら答えられないけど、楽しかった」って(笑)。
やってみて、どうだった?
中川:
最初に台本もらった時点で、好きなお話だなと思いました。出演する舞台に好きとか嫌いとか、基本無いんですけど、昔のイナゴの「最高級のスナック菓子」って言ってた頃のような、面白くてグッとくる部分があって。もっとできたんじゃないかとは思いますけど、自分の中では、ターニングポイントじゃないけど、やってきた作品の中では印象に残るっていうか、やって良かった作品の一つになりました。最初は何も考えずに役をやっていて、考えすぎるのは良くないなと思いながら、でも自然と考えさせられるし、演じながら一つ一つ体感していく感じでしたね。
武田:
ここはこういうシーンだからこうやって、みたいに僕からあまり細かく言わなかった。
中川:
やりながら感覚的に理解していきました。「孤独と孤独を重ね合わせる」ってセリフがありましたけど、妹が高いところから飛び降りて、抱き留めたゲロとキスをしようとするシーンで、「あ、これが孤独と孤独を重ね合わせるってことか」とか。全部を明確に伝えようとしなくていいんだけど、ここはもっとしっかり伝えたいな、とか、考えながらやってました。
武田:
演出として、もっと一つ一つのシーンの絵にこだわっても良かったけど、まずは俳優同士の感覚が合ってるかどうかを第一に考えてた。お互いが不自由なままシーンを固めることはしたくなかったので。
中川:
自由にやらせてもらってる感覚はありましたけど、その都度、演出はちゃんと入れてもらっていたので。
武田:
中川さんの演技に関しては、それは明らかに違うだろ、みたいなのが今回はあまり無くて。個人的に「もっとこんな表情や声を出せる人じゃないか」って思ってたところがあって、そのためには、あまりルールを設けずに自由にやってもらうほうがよいかなと。ちゃんと自由に振る舞えたら、自然と良いものが出るんじゃないかなと思ってたので。
中川:
私と武田さんって、野田秀樹好きっていう共通点があるじゃないですか。だから今回のは感覚的に合っていたのかも(笑)。
武田:
そこか(笑)。僕も自分で書いてて、ここ野田さんっぽいな、とか思ってたけど(笑)。「宇宙だか世界だか」の言い回しとか。
中川:
わかる(笑)。「独り言を始めたらそれはもう見つけてほしいの合図だわ」とかね。だからなのか、このセリフ良いなーってのが多かった。
武田:
良いなと思ってるセリフを発してる時って、声も通ってるし表情も良い。割と大学の時にやってた演出のしかたに近かったかも。余計なこと考えずに声出して動いてって。それぞれが、散らかってもいいから出し惜しみせずに色々出してみてほしくて。片付け方はみんなで考えたらいいし、自分で片付け方まで考えてしまうと逆に噛み合わなくなったりするから。
中川:
ですね。
武田:
山広朋実さんとの共演はどうだった?
中川:
いつも全体を俯瞰して見てて、視野が広いし、素敵な感覚を持ってる方だなと思いました。
武田:
僕が中川さんや山田くんに演出してる内容をしっかり聞いてたしね。実はすごく丁寧に演技してた。
中川:
はい。ちゃんと考えて咀嚼しながらやってるというか。
武田:
(山広さんのことを)努力家って言ってたもんね。
中川:
地道に重ねていける人って思います。プロ意識を持ってる。だから色んなところから呼ばれますよね。彼女の落語もすごく素敵です。無理に笑わせようとしてないのに、淡々と面白い。
武田:
今回、歌があったけど、これまで舞台上で歌ったことは?
中川:
ミュージカルみたいなのは経験無いですけど、幕間に歌うとか。あ、『たちつと』(※)で、ハンプティダンプティの歌を歌いましたね。(※2015年に上演された山田健太脚本、武田演出の舞台。中川はタマゴという「手がない」役を演じた)
あと歌じゃないですけど、指揮者をやったことがあります。本物の指揮者の指揮を見せてもらったんですけど、自意識がすごく出てる感じで、これ自分がやるの難しいなあと思いながら。
武田:
奏者たちを引っ張らないといけないからね。合わせてたら演奏が遅れてくし。素人の方が指揮をやってみるっていう企画で、オケの演奏がどんどん遅れていくのを見たことある。
中川:
当時の私には大変な作業でした。自我の強い俳優たちを束ねないといけなくて(笑)。今は、仕事で人に教えたりする機会が増えたりして、人を引っ張ることが以前よりできるようになったので。
武田:
なるほど。
中川:
今回は山広さんの歌が良いから、それで自然と世界ができあがっていく感じでした。
武田:
そうね。最初からミュージカルや音楽劇っぽいことをやろうと思ってたわけじゃなくて、山広さんを絡めたらこういう形になったというか。最初は俳優さんに歌わせる予定もなかったし。山広さんを『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンドみたいな存在にするとかいう構想があったよね(笑)。
中川:
ありましたね(笑)。あれはあれで面白そうでした。
武田:
まあ今回のも、多少スタンド的要素はなくもない(笑)。
中川:
後半のシーンで、最初読んだ時はゲロ(山田健太)に対して言ってると思ってたセリフが、あ、これ(妹には見えてないけど)ツバキに言ってるかも?って思って、ツバキの存在を意識するようになりました。
武田:
そのシーンの「宇宙を代表してあなたとランデブーしたんだ」っていうセリフの「あなた」って、実は音楽のことを言ってる。だから捉え方としては合ってる。
中川:
自分の役のセリフはどれも好きでした。「あなたは消えない、だって歌はずっとあるんだもの」のくだりとか、兄ちゃんとの別れのシーンとか、妹の去り際のセリフとか。「兄ちゃんカッコいいぜー」とか、やってて泣きそうになるよなーと思ってて、ハケた後に武田さん見たらホントに泣いてるし(笑)。
武田:
あれはツナパンのせいだ(笑)。実はツナパンのくだりは上演台本には書かれてないんだよね。(※元ネタは中川が実際に体験した実話)
最初はあのシーン、エーアイから歌が流れるって設定で、兄と妹が2人で過ごしてた頃の妹の声が良いなと思って変えたけど、演じてる側としてはかなり心に響くよね。
中川:
そうですね。普段、自分のおばあ(※めちゃくちゃご健在です)に会いたくなったら、おばあの動画を見たりします。あ、私、兄がいるんですけど、あまり兄って感じがしなくて。今回の武田さんのほうが兄ちゃんだった(笑)。
武田:
マジで(笑)。
中川:
武田さんが演出なので、兄との稽古回数は多くなかったけど、割とうまくいってたというか、お互いにちゃんと生きてた感じはありました。
武田:
山田くんにも弟がいて、兄ちゃんらしいことは全然してないって言ってたけど、別れのシーンにはグッと来てたらしいよ。あの兄は、僕の中では『男はつらいよ』の寅さんの変形バージョンみたいなもの。妹から「兄ちゃん」と呼ばれ続けてて、妹の境遇も含めて兄ちゃんであり続けようという意志というか覚悟を抱えてる役。『男はつらいよ』の歌にも「いつかおまえのよろこぶような偉い兄貴になりたくて」ってフレーズがあるけど、まさにそれで。だから妹の「妹って呼ばれ続けて名前忘れたの」っていうセリフは兄ちゃんに当てたセリフでもあるんです。自分の台本できょうだいを書いたのはほぼ初めてかも。あ、高校の時に書いたかな。でもあれは最後に関係が明かされる話で、あれも兄と妹だった。
中川:
ちょっと憧れてるのかもですね。私もきょうだいを演じるのは多分初めてでした。ま、そもそも普通の役というのが少ないですけど(笑)。
武田:
(笑)。ではそろそろ締めに入りますけど、今後の展望や希望は?
中川:
今回の作品を、もっと回数重ねたかったなと言う思いがあるので、またやれたらいいなと思います。
武田:
じゃあ、これを読んでる皆さん、再演希望の声を寄せてください(笑)。
中川:
応援福袋を購入してくれた人からのメッセージに、過去の作品の再演希望も結構ありましたよ。直に言われることもあるし。武田さんの台本が、何かしら心を打つんだろうなって思ってます。
武田:
やった、良い気分で終われる(笑)
中川:
男女関係なく、違う役やってって言われたら何をやりたいですか?
武田:
この作品で?
中川:
あ、そういうわけじゃ。この作品だと選択肢少ないでしょ(笑)。
武田:
ツバキ。山広さんの役。ゴトウイズミさんにやってって言われた。
中川:
へー。
武田:
でも昔、ヲルガン座の「8分間劇場NEO」(※)で、練習したのにギターを全く弾けなかったのがトラウマでなんだよね。(※2018年にヲルガン座で行われた演劇企画。4人がそれぞれ2人芝居の台本を書き、1人2作品に出演する)
中川:
意外。音楽のセンスありそうなのに。
武田:
ギターは指が全く言うことを聞いてくれない。指が長くて関節が固いから。ピアノはまだどうにかなるけど、ギターは弦を押さえられない。でも役としてはやってみたい。中川さんは?
中川:
また妹が良い(笑)。
武田:
何だよ(笑)。まあ人には当たり役とかハマり役ってあるもんね。
中川:
愛されてる人って強いなって思いました。妹って、ホント兄ちゃんに愛されてて、それで安心できたから。それに引き換え、ゲロのやつは(笑)。
武田:
「優しさはバファリンの中にもない」なんてセリフを吐く役だから(笑)。
中川:
でもゲロもやってみたいかな。
武田:
顔に汚しを入れてね(笑)。制作の宮川さんが、「らんちき(※)をやりたい」って言ってた。そのくらいのノリでやれたら面白いかもね。(※配役をシャッフルすること)
俳優インタビュー①
山広 朋実(やまひろ・ともみ)
【Profile】
アコースティックギターの弾き語りで広島市内を中心に活動中。アルペジオ奏法と素朴で日常的な歌詞が特徴的。2019年には2枚組フルアルバム「涙の海を渡ろう」を制作。ライブ活動に加え、朗読や演劇、ダンスとのコラボレーション等色々なアプローチで表現の幅を広げている。
「お芝居に自分の曲が使われるのは、
子どもを思う親のような気持ちでした」
聞き手:武田 宜裕
武田:
インタビューの前に、ちょっと内輪の話で恐縮なんですが、制作の宮川さん(宮川愉可)が、公演後も作業中に頭の中でエンディング曲の『青空』が脳内再生されて、思わず涙が出るって言ってました(笑)。僕もこの前、『涙の海を渡ろう』を流しながら自転車漕いでたら、空が青くて広くて、劇中のシーンを思い出して、泣きながら自転車漕ぎました。
山広:
あはは。
武田:
終わってみて、周りの反応はどうですか?
山広:
佐々木くん(佐々木隆弘。広島のシンガーソングライター)に、彼もミュージシャンだけど劇團ぬるま湯で俳優やってて、それもあるのかな、山広さんカッコ良かったって言われました。「マジか」って(笑)。
武田:
普段はどう見られてるのかな。
山広:
カッコ良いとは言われたことないです。ふわっとしてるとか、柔らかいとか言われますね。
武田:
ライブの時の山広さんはそういう印象ですね。僕も初めて拝見した時は、不思議な柔らかさを持った人だなと思いました。あと、山広さんの曲はヒーリング・ミュージックではなくて「リハビリ・ミュージック」だなと。泣いて、全て洗い流せる、みたいな。僕も散歩しながら聴いてボロ泣き、みたいことがありました(笑)。
山広:
(笑)。
武田:
今回の舞台は、曲の雰囲気とかで、どのシーンにどれを使うか考えたんですけど、そこまで細かい計算してたわけじゃなく、歌詞もそこまで意識したわけじゃないんです。なのにこんなに物語とリンクするのかって思いました。割とシーンそのまんまじゃん、ってところがいくつもあって、繋がるべきところに繋がってるなと。あのフリップのシーンみたいに、山広さんは預言者かって思いました(笑)。
山広:
(笑)。今回、どうしてあの曲たちが選ばれたのかなって。『青空』を使った理由は以前聞かせてもらいましたけど。
武田:
僕へのインタビューみたいになってる(笑)。
さっきも言ったけど、歌詞を読み込んで選んだわけじゃなくて、インスピレーションで。台本を書きながら、シーンが切り替わるところとかで、あ、ここで曲かな、って感じで。
でも『誰も知らない』は割と歌詞からチョイスしてます。「歌うことをやめられない」っていうフレーズが、登場人物の誰が歌っても、それぞれの抱えてるものに繋がるなあと。今僕らには表現が必要だっていう想いとも繋がるので。あとは完全に個人的な好みですが、サビの最後で、何だろう、元ちとせさんみたいな歌い方してる箇所が好きで。なんか裏返り声みたいな。
山広:
え、あまり考えたことなかった(笑)。
武田:
勝手にメッセージ性を感じてました(笑)。
山広:
『Blue』は?
武田:
『青空』からの『Blue』って、すごい繋がりだなと(笑)。タイトル見ずに曲だけ聴いてたので、後でタイトル見て、うわってなりました。そして聴いた瞬間は、「あ、これはゲロの曲だ」って思いました。
山広:
へー。
武田:
「慣れないことをした次の日は体が重たくて痛い」っていう部分が良いなと。ゲロって、自分はこういう存在だって言ってるけど、実際はそうじゃなくて、それで高いところから飛び降りて宙を舞ったら、忘れてた痛みを思い出した、みたいな。言葉を言えずにずっと空吐きしてて、それを全て言葉に吐き出した時に本当に苦しくなるっていうところが、繋がるかなって。陳腐な言い方をすれば、それって生きてるっていう実感なんじゃないかなあ、って。
あと『涙の海を渡ろう』は、幕開きに相応しいなと思って。アルバムのタイトルにもなってるし、山広さんの歌としてはかなりメジャーな曲だから使っていいのか悩んだんですけど、これならちゃんと物語が始まれるなと。『青空』がエンディングとしてお話をちゃんと締めていて、でも作品として成立させてるのは、この曲の存在だなと思います。
はい、僕へのインタビュー終わり、ありがとうございました(笑)。
山広:
(笑)。
武田:
今回みたいに、自分の曲が別のジャンルで使われるのってどういう感覚ですか?
山広:
最近こういうことがたまたま重なってるんですよ。前田多美さん(広島在住の映画監督)が今製作中の映画の中でも、自分の楽曲を使ってもらってます。秋頃に公開予定なのかな。他にも色んな広島のミュージシャンの楽曲が使われる中の一曲として。
武田:
お芝居とかで、全編自分の曲が使われるというのは?
山広:
初めてです。網代くん(網代侑祐、広島の舞台俳優)との朗読では、私の曲とのコラボをやってますけど。彼との朗読で『涙の海を渡ろう』を使ったことがあるので網代くん嫉妬しないかなと思ったけど、すごく良かったって言ってくれました。
武田:
曲が使われるだけではなく、俳優としても舞台に立って、生で歌うのは、正直どうでした?その前に、こんなに稽古出ないといけないのかよ、とか(笑)。
山広:
稽古多いなとは思いましたけど(笑)。
武田:
僕らも、出れる時に稽古に出てもらえたら、という思いでしたけど、実際これだけ出てもらえて助かりました。お芝居の稽古日数としては多い方ではないんですけど。
山広:
一言で言えば全部楽しかったです。稽古も、そのぐらいやるものなんだろうなって思ったし、ストレスはなかったです。でもこうやって自分の曲が使われるのは、最初は恥ずかしかったです。
武田:
恥ずかしい?
山広:
はい、照れ臭さがあって。
武田:
以前、山田くんとのお芝居でもやったことあるので、ちょっと意外です。
山広:
あれは半分山田さんの曲(山田健太が作詞をして、山広さんが作曲)ですから。今回のステージ用に作った曲ならそうは思わなかったかも。普段から歌ってる曲を、しかも正確には山広朋実ではなく、ツバキという役として歌うことに違和感があったので。あと『青空』をみんなで歌うっていうのも(笑)。ああいうことも普段ないので。
武田:
あれはみんな照れ臭かったと思います(笑)。そしてもっとダメ出しされるだろうなと思ってた。山広さん優しいなと(笑)。
山広:
(笑)。
武田:
途中まではパート分けとかハモリとか色々やってましたけど、何か違うなと(笑)。でも山広さんの違和感って、例えば漫才師がコントをやると照れるっていうのに近いのかな。漫才は自分として喋るけど、コントは役を演じるから。
山広:
近いかもしれないです。
武田:
演じてる、っていう感覚はどのくらいありました?
山広:
あまり無かったです。ツバキという役ですけど、自分の歌を歌う以上、ツバキとして歌うことはできないかなと。できないというか、自分の中で変な感覚になるので、あまり気にしないようにしようと。でもきっと、今ツバキはこういうことを考えてるんだろうなとか思いながら、他の俳優を見たり動いたりはしてました。
武田:
山田くんとのやりとりは、回数重ねるごとに色々手の込んだことしてきたな、と思ってました(笑)。画用紙を床に叩きつけるのも、回を追うごとに強くなっていって。
山広:
え、そうでした?(笑)
武田:
俳優的なセンスを感じましたよ。山田くんから目を逸らすシーンとか。相手がやりたいことや、相手の呼吸を感じて、自分が用意したことだけをやるんじゃなくて、やりとりが成立してて。そんなに意識してないかもしれないけど、ちゃんとやってるなって。
山広:
あまり意識はしてないですけどね。でも武田さんが山田さんや中川さんに、「ここがこうなら、こうなるよね」とか指示してるのを見て、なるほどーって思いながら、勉強してました(笑)。
武田:
でもそれを聞いて、同じように俳優として演じても差が出ると思うので、そこは舞台での自分の立ち方を分かってるなって感じました。山田くんが「居ずまいが良い」って言ってましたけど、立ち姿とかも意識してるというか。僕もあまりこうして、ああして、って細かく言う必要がなくて。もう少しはっきり声に出して、とかは言いましたけど、やってること自体がズレてるというのが無かった。
山広:
自分がどう見えてるかは普段意識してると思います。表情とか。自分はこういう感じで弾いてたつもりだったけど、動画を見たら「あ、棒立ちだ」とか。その辺は気にしてると思います。
武田:
自分のライブを動画で見返す?
山広:
毎回じゃないですけどね。あと録音はします。
武田:
僕は動画で見返すのが苦手で。立ち位置とか動きの確認のためには必要なんですけど、自分の声とかは電子機器で変換された音声だから、お客さんに届いてるのかどうか、音量や聞こえ方だけでは分からないので、あまり信用してないんです。でも見え方を意識してチェックしてるってのは、すごいというか新鮮ですね。
山広:
誰かが撮ってくれた自分の写真を見て、姿勢が悪いなと思ったのがきっかけです。でも、まだまだですね。
武田:
まだまだというのは俳優として?(笑)。
山広:
いやいや(笑)。
武田:
そうそう、ヲルガン座のゴトウイズミさんが、幕が開いた時、山広さんがセンターに立ってて、その瞬間ヲルガン座の照明以上に「光が差した」って言ってました。山広朋実を輝かせてくれてありがとう、って(笑)。
山広:
あははは。実際どんなだったのか見てみたいな。
武田:
動画じゃわかんないでしょうけどね。でも、あの始まり方は本当にやりたかったので。あれでお客さんの集中がグッと高まった気がします。
山広:
他のお客さんからも同じようなこと言われました。あ、そうそう、前にSNSで呟いたんですけど、自分の曲が使われるっていうのは、子どもに対する親のような気持ちのようでしたね。
武田:
大切な我が子に変なことするなよ、っていう(笑)。
山広:
(笑)。変な使われ方はされないと思ってましたから。
武田:
いやー、以前、森本ケンタさんの新曲をテーマにお芝居を作る機会があって、その曲はストレートでハッピーな内容なんだけど、僕は叶わない恋の物語として描いたんです。そのほうがドラマになるというか、曲の中で表現されている想いの尊さが伝わるかなって。でもそれは僕の解釈でしかないし、今回山広さんがどう思うかなってのは、正直不安でした。
山広:
最初に武田さんが私に、違和感があったり、こうしたいってのがあったら言って、って言ってくれましたけど、そういうことはあまりなかったですね。元々どういう風に解釈されてもいいかなって思ってたのもあります。私、曲を作る時、これが伝えたい!という感覚じゃなくて、経緯や背景はありますけど、共感を求めてるわけじゃないというか。わかる人にだけ分かればいいかなと。
武田:
台詞にもありましたしね。「わかる人にだけわかれば」って。
山広:
はい。あ、グッと来るセリフは結構ありました。
武田:
僕が良い気分になりたいので、聞かせてください(笑)。
山広:
妹のセリフは全般的に好きですね。「兄ちゃんがいるから孤独なんだよ」とか、感覚的にわかるなって。自分は今回イナゴの人たちと長く一緒にいて、一緒に舞台を作ったけど、劇団員じゃないからずっと一緒にやっていくわけではないし、楽しいけど、でも私は1人なんだよな、って思ったこともあったので、そういう気持ちと繋がりましたね。
あと、「孤独ってこういうことなんだ」って妹が語り出すところも良いし、ゲロの長台詞のあとに妹が「音楽は消せない」って言うシーンはヤバかったですね(笑)。
武田:
割とみんな、人のセリフにジーンと来てる時があったみたいですね(笑)。元々自分も言葉の意味やつながりを頭で細かく整理しながら書いたわけじゃなくて、その時に自然に出てきたセリフはそのまま書き切ってしまうようにしたというか。宮川さんに「ツバキとゲロの関係って、メロディと歌詞の関係ですか?」って聞かれて、最初の着想はそんな感じだったんだけど、僕がどうより、宮川さんの解釈がそれならそれでいいなって。自由に解釈してもらえたらいいなと思います。
ってことでそろそろ締めたいなと思うんですけど、またコロナでライブが厳しくなってきちゃいました。
山広:
通常のライブという形では難しいけど、時短のヲルガン座で、通常営業時のディナーショーという形でのお話があるので、そういうことでもできたらいいかなと思ってます。
武田:
コロナが始まった頃、SNSで山広さんが「今日、歌ってみます」みたいに時々配信されてましたけど、今それをされたら心配になってしまうかも(笑)。やっぱり山広さんにはステージに立ち続けてほしいです。まあお芝居は、、、またぜひ、とはあえて言わないです(笑)。もし一緒にやることがあるなら、自然とそういう流れになるかなと思うので。
山広:
そうですね。